『聲の形』で日本アカデミー賞優秀アニメーション賞を受賞した山田尚子監督をはじめとするスタッフによる最新作『リズと青い鳥』のレビューです。
公開から1年経った今、再び見る機会が訪れたので語ります。
作品データ
公開日:2018年4月21日
製作国:日本
配給:松竹
上映時間:90分
主演:種崎敦美
監督:山田尚子
公式サイト:http://liz-bluebird.com/
公式PV
おすすめ度
★★★★★★★★★☆(9/10)
女性監督だからこそできることをふんだんに盛り込んだ作品です。
では詳しく見ていきましょう。
あらすじ
鎧塚みぞれ 高校3年生 オーボエ担当。
傘木希美 高校3年生 フルート担当。希美と過ごす毎日が幸せなみぞれと、一度退部をしたが再び戻ってきた希美。
中学時代、ひとりぼっちだったみぞれに希美が声を掛けたときから、
みぞれにとって希美は世界そのものだった。
みぞれは、いつかまた希美が自分の前から消えてしまうのではないか、という不安を拭えずにいた。そして、二人で出る最後のコンクール。
自由曲は「リズと青い鳥」。
童話をもとに作られたこの曲にはオーボエとフルートが掛けあるソロがあった。「物語はハッピーエンドがいいよ」
屈託なくそう話す希美と、いつか別れがくることを恐れ続けるみぞれ。ーずっとずっと、そばにいてー
童話の物語に自分たちを重ねながら、日々を過ごしていく二人。
公式サイトより
みぞれがリズで、希美が青い鳥。
でも……。
どこか噛み合わない歯車は、噛み合う一瞬を求め、まわり続ける。
感想(ネタバレ)
本編を知らなくても楽しめる作品
本作『リズと青い鳥』はアニメ『響け!ユーフォニアム』という作品のスピンオフ的な立ち位置の作品なんですが『響け!』を見ていない方でも十分楽しめる作品となっており、むしろ『響け!』とは違った作風・画風の作品となっているため見ていなかった方のほうがすんなり受け入れやすい作品かもしれません。
私自身、本作をはじめてみた時は『響け!』は未鑑賞でしたが内容はほとんど理解できましたし感動も出来ました。
しかしやはりスピンオフ作品のため時々、本編を見ていない方にしかわからないような人物名や内容もありましたし、すごく良い作品だったためより深く理解したいと思い原作とアニメシリーズを見てから再び鑑賞に行きました。
そうしたことによって本作に登場するキャラクターの関係性や過去に起こった事象などに対することが分かり本作に対する理解がより深まり、本作にドハマリしました。
公開当時、本作を見るために何度も劇場に足を運び、映画館で3回以上同じ作品を見たのはアベンジャーズと本作くらいでそれくらい私の中で最も素晴らしい作品の一つです。
そして本作のおかげで私が一番好きなTVアニメの『響け!ユーフォニアム』というアニメ作品にも出会うことができたので本作には感謝しかありません。
みぞれという青い鳥
本作では鎧塚みぞれと傘木希美を童話「リズと青い鳥」に登場するリズと青い鳥になぞらえたように物語が進みます。
童話「リズと青い鳥」では一人寂しく生活するリズのもとに青い髪をした女の子がやってきて一緒に暮らすうちにリズにとって少女は特別な存在になります。
しかしある日、リズは少女が実は青い鳥だということに気が付いてしまいます。
少女のためには大空に羽ばたかせたほうが良いと思う一方、少女に出会う前のように一人ぼっちの寂しい生活に戻るのも不安に思うリズ。
少女の幸せを思ったリズは青い鳥を大空に羽ばたかせて童話は終わります。
この童話になぞらえてみぞれがリズで希美が青い鳥のように話が進むんですが、実はみぞれが自由な翼をもち大空を羽ばたける青い鳥であったというシーンが映され本作はエンディングを迎えます。
しかし、序盤からみぞれが青い鳥であるという伏線は結構あったんです。
それが作品を通じて学校内のみで話が進むことと、校舎の窓の外にいる青い鳥です。
本作はオープニングからすべて北宇治高校という主人公の鎧塚みぞれと傘木希美の通う学校内だけが舞台となっています。
オープニングからみぞれは校外からやってくる希美を待っていますがそれも学校内ですし、部活のときにお祭りに行く約束やプールに行く約束などするんですがそういった学校外での行事の出来事は描写されることはなく次の日の学校での思い出話としてしか語られることはありません。
その理由が学校が鳥かごというメタファーだからです。
こうすることによってみぞれは学校という鳥かごに閉じ込められた鳥であるということを表現し、最後に希美への依存を克服することによって学校という鳥かごを出て、広い空へと羽ばたいていくという印象を強めています。
また校舎の外に度々登場する青い鳥もみぞれを表しているように感じました。
みぞれが自分の道を進むという決意をしたときに飛び立った青い鳥は印象的ですが他にもみぞれが青い鳥であるというメタファーが使われているシーンが結構あり、みぞれが希美にそっけない態度を取られたときにはみぞれの感情と連動するように校舎の外にいる青い鳥が飛び立てていないようなシーンも見受けられます。
このように実はみぞれが青い鳥であるということが伏線としていくつも隠されており、そういった部分を探してみるのも本作では面白いと思います。
顔以外の部分で女子高生の繊細な心情を描く
本作ではキャラクターの足や手がよく映されるんですがその足や手の動きを見るだけそのキャラクターがどんなことを感じているかわかりますし、そう言ったシーンが女子高生らしさを出しているような気がします。
キャラクターが機嫌がいい時はステップをするような歩き方を映した足の動きだけで楽しさが伝わってきますし、嫉妬や怒りのようなものを感じたときには拳を握るような動作をしたりすることによってあまりポジティブな感情を抱いていないんだろうなって言うことが伝わってきます。
そうすることによってまわりに合わせてネガティブなイメージを持たれないようにしようとするような人間、特に年頃の女の子の感情を表現しているように思いました。
女子高生くらいの年頃の女の子は特にそうだと思うんですがまわりから嫌われること恐れるあまり、ネガティブなことを思っても表情にあまり出さず心のなかに押し殺してしまう事が多いと思うんです。
繊細な心を持つ女子高生らしさを出すためにそういった押し殺した感情を表現するのに顔に出すのではなく、手や足を使ってネガティブな感情を表現していたのでは無いだろうかと私個人としては思いました。
このような表現は女性監督だからこそできた表現方法だと思いますし、女性の共感も受けられるような作品に仕上げることが出来たんでしょう。
今後も本作の山田監督のような女性監督がたくさん出てきて男性監督では作れなかったような作品を作っていってもらいたいですね。
画像: (C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会
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