第91回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を獲得し、ゴールデングローブ賞主演男優賞を獲得した作品が日本上陸。米国元副大統領バイスの実話を描いた。監督はアカデミー賞監督賞ノミネートの経験もあるアダム・マッケイ。主演のディック・シェイにーを演じるのは過去何度も様々な賞レースで主演、助演男優賞にノミネート、受賞してきたクリスチャン・ベール。
作品データ
公開日:4月5日
製作国:アメリカ
配給:ロングライド
上映時間:132分
主演:クリスチャン・ベイル
監督:アダム・マッケイ
公式サイト:http://www.longride.jp/vice/
おすすめ度
★★★★★★★★☆☆(8/10)
歴史は繰り返す
では詳しく見ていきましょう。
あらすじ
1960年代半ばディック・チェイニーは政界入りを果たし政界に入ってからは政治の表と裏を学び、権力の虜となる。徐々に重要な役職につくようになっていきジョージ・W・ブッシュ政権のときには副大統領となりアメリカを影から操るようになる。そして9.11、同時多発テロの発生時には大統領であるブッシュを差し置いて危機管理を行い、イラク戦争へ国を導く。アメリカを、世界をめちゃくちゃにした男のまさかの実話。。
感想(ネタバレ)
タイトルの意味
本作の邦題の『バイス』は原題ではそのまんまの『Vice』です。
ではこのViceとはどういう意味なんでしょうか。
viceとういう英語を日本語にすると以下の通りになります。
vice→①悪徳、邪悪②売春③欠点④悪い癖
等の意味があります。
本作は①の意味で使われ主人公のディック・チェイニーを間接的に表した言葉です。
ディック・チェイニーは「vice」という言葉が本当に似合うような悪人であったいうことが本作で監督であるアダム・マッケイは伝えたかったのでしょう。
釣り上手のディック
本作ではしばしば釣りのシーンがあります。
ディック・チェイニー自身の趣味の1つであるため彼が家族たちと普通に楽しんでいる場面が多々ありますが本作では彼が比喩的に人を獲物にした釣りをしていたことも表現されています。
チェイニーはその実力が評価されフォード政権で34歳のとき史上最年少でアメリカ大統領首席補佐官に任命され、ブッシュ・シニアの時代には国防長官になるなど権力のある役職を歴任してきました。
当時アメリカ大統領戦に出馬していたが勢いのなかったブッシュ・ジュニアはそんな彼の実力に目をつけ副大統領の職に推薦します。
しかしはじめは名だけのお飾りである副大統領という役職に興味のなかったチェイニーだったがうまくすればアメリカを影から操ることができるということに気がつく。
そしてどうしてもチェイニーを必要とするブッシュ・ジュニアに副大統領に対してこれまで以上の発言権や決定権などを増すようにしてくれたら副大統領を引き受けても良いという餌をまく。
チェイニーを味方につければアメリカ大統領に近づくと考えていたブッシュ・ジュニアは後に政権を影から操られてしまうということにも気づかずにまんまとそんな餌にひっかかりチェイニーに釣られてしまったのです。
ディック・チェイニーの趣味である釣りをうまく利用して、ブッシュ・ジュニアという獲物を釣り上げるという比喩で表現されたシーンはすごい面白かったです。
ディック・チェイニーへの皮肉
本作は”ハート”という言葉がよく合う作品だなと感じました。
心臓病を患っていたチェイニーは本作でしばしば倒れるシーンがあります。つまり心臓という意味でのハート。
さらに自身が成り上がるために学生時代にいきなり下院議員であったドナルド・ラムズフェルドのもとに弟子入りしに行ったり、同性愛者だった娘のメアリーを守るために自身のキャリアアップの夢を諦めたりと気持ちの強い部分のある男でした。つまり気持ちという意味でのハート。
こういったふうに本作、というよりもディック・チェイニーという一人の人間には”ハート”という言葉がよく似合う人間なんですね。
そして本作の監督であるアダム・マッケイはそんなチェイニーに似合う”ハート”という言葉を皮肉を込めて我々に伝えてくれます。
娘であるメアリーが同性愛者でことを知ったチェイニーは保守派で同性愛など反対である共和党の人間であったためメアリーのことを思いそれ以降の政界への進出を辞退します。
しかしもうひとりの娘のリズが政界進出する時に妹のメアリーが同性愛者だということが世間に発覚して共和党の議員として出馬していた彼女にとっては不利な状況になってしまいました。そんな彼女が状況を打開するためにとった行動が同性愛を反対するような発言をするということ。そのおかげで彼女は現在下院議員として働いていますが同時に妹のメアリーを傷つける皮肉な結果となりました。
さらに本作ではジェシー・プレモンス演じるある一人の男性がナレーターとして登場します。本編の終盤で明らかになるのですがこの男性は実はかつて心臓病で死にかけていたディック・チェイニーに心臓のドナーとなった方だったんです。そしてチェイニーはこの男性に対して感謝を述べることもなく現在も暮らしています。このようにチェイニーの物語を進めるナレーターがチェイニーの命を救った男性であるということも皮肉を感じます。
こんなふうに本作ではチェイニーに対する皮肉を込めた作品でもあります。
繰り返される歴史
そして本作で監督であるアダム・マッケイが最も伝えたかったことが歴史は繰り返されているということです。
そう現在のアメリカ大統領ドナルド・トランプです。
大統領と副大統領というふうに表面的な立場は違いますがチェイニーのやっていたことはほとんど大統領と変わりません。表に出るか出ないかくらいの違いです。
この2人は会社の経営も行っていおり大富豪であるため金持ちに優しい政策をするという点で似ています。
さらにチェイニーは狩猟中に誤射したことによって友人に重症を負わせたという過去があるにもかかわらず狩猟が趣味であるため銃規制に反対であり、トランプもアメリカ国内で銃乱射事件で起こり銃規制に反対するという面でも似ています。
そして何よりこの2人はアメリカ軍を使い海外に爆撃を行い数多く死者を出しました。
このように本作ではチェイニーが影でアメリカを操っていた時代が繰り返されるような政治を行っているトランプ政権とアメリカ社会に対してアダム・マッケイが批判を込めた作品です。
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